『人類学者たちのフィールド教育ー自己変容に向けた学びのデザイン』の裏話
『人類学者たちのフィールド教育―自己変容に向けた学習デザイン』(以下、本書)が無事刊行されました。本書は、わたしにとって画期的な試みでした。
わたしたち研究者の論集は、たいていまずは口頭発表して、メンバーから意見をもらい、それを文章にまとめて出版するというもの。しかし、今回は志を同じくする3名が、夜に新宿のルノアールに集まり、何度も話し合って少しずつ形づくっていきました。
昔、IT系ベンチャー企業の社員がみんなオフィスに泊まり込んで議論しながら新しいサービスをリリースするみたいな話を聞いて、かっこいいなと思っていましたが、そこまでではないけれど、そういう感じの熱さが本書の執筆過程ではありました。 3人はそれぞれの教育実践のフィールドをもち、考え方や立場が違います。しかし、というかだからこそ、自分のなかからは出てこない発想に触れ、それをくみ取って、発展させていくことができました。いわばバンドメンバーによる共同作曲、あるいはジャズの即興演奏のようなものです。
わたしはものづくりへの憧れがあったので、こうして書籍という「モノ」を共同でつくりあげていく作業は、たいへん充実したものになりました。幸いZoomのおかげで、夜11時に集まり、細かな語句の調整を何度も重ねたりすることもできました。
わたしは人類学者ですが、大学で雇ってもらうまでは、学部生の頃から15年ほど大学受験の予備校で小論文を教えてきました。そこで思考力を育むにはどうしたらよいかと考えてきました。暗記中心型の学びからの脱却が叫ばれる中で、もっとできることがあるのではないかと様々な試みをしてきました。さらに、大学に雇われてからは、海外体験学習に力を入れてきました。
これらはすべてつながっていて、教育をとおして世の中を少しでもよりよいものにしたいという思いがあります。
今回、本書では「フィールドワーク教育」ならぬ「フィールド教育」にフォーカスし、「自己変容型フィールド学習(SFL)」という概念を提唱しています。
もっとも、わたしたちはITベンチャー企業のように世の中の変えるような画期的なサービスを生み出すことできないでしょう。しかし、いま人類学者として自分にできるのは、新しい言葉を生み出し、人びとの意識に影響を与え、世の中の見え方を少し変えていくことだと考えています。
本書の刊行までの共同作業はたいへん刺激的でした。
学会誌への論文投稿だけでなく、今後はこうした仕事がたくさんできればよいと考えています。
今後、このブログでは、編者3名が中心となって本書に書ききれなかった諸々の話を公開していきます。3日坊主にならないように、気をつけます。
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